いずむうびい

テキトーなブログ。

青春歌留多漫画譚『ちはやふる‐下の句‐』

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主人公・千早の情熱によってこの映画の「かるた」は生を受けていたから,先の『上の句』では,まずその情熱に取り掛かる手筈として周囲の人物を描いていたのだなと分かる今回の『下の句』でありました.意外性の上の句,普遍性の下の句.

千早というキャラクターは,典型的な少年漫画の主人公タイプだ.『ドラゴンボール』の孫悟空,『スラムダンク』の桜木花道,『ワンピース』のルフィ.天真爛漫な性格で清々しい印象.描かれる題材に対してどこまでも貪欲で純真無垢.世の中にいそうでいない.でも誰でも理解できる「理想」で固められたキャラクターだ.こういうキャラクターは特にバトル漫画ではいちばん主人公に据えやすい.

なぜ据えやすいのか?それは他のキャラクターを構築しやすいからと思う.その主人公には無いもの.つまり主人公と真逆の者を作り出せば好敵手といえるし,その主人公にない部分に特化した者を作り出せば仲間にしやすくなる.

ちはやふる』は,そういった少年漫画のバトルマインドで構築されているのがまず楽しい.しかも,描かれるのが「かるたバトル」.目に飛び込む新鮮味と古き良きスタンダードの配分が抜群に素晴らしいのだ.

ストーリーで素敵だなと思うのは,千早の純粋さばかりを持て囃すでも詩暢の孤高を持ち上げるでもなく,千早には太一.詩暢には新.両方の価値観を俯瞰させつつ,その「多様性」と「豊かさ」を認める物語に仕上げているところだ.かるたの配置よろしく絶妙な戦略のもとキャラクター構築と配役がなされているのだなと思いました.

なので,若干気になる点といえば「かるた」という変わった題材が頭にあるので,少しキャラクターが計算されすぎているというか.そのせいか「いけー!」ってな感じに思いっ切り「試合」に心を持っていかれることは無かったかなぁと.いったん上の句で雰囲気は掴まされてるので,下の句では「はー」とか「ほー」とか思いながら,なんかずっと感心しっぱなしでした.しかしながら続編制作決定はめでたい.広瀬すずちゃんはチアガールもやるみたいなんで部活女優として独自のものを切り拓いていってほしいですね.楽しかったです!

凄い96発『アイアムアヒーロー』

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花沢健吾原作映画.原作は何巻までかなー.とりあえず映画んとこよりもう少し先までは読んでる.キャスト的に無いのは分かってたけどエロ皆無だったのは残念.ドラマも展開が先走ってて「急に何言ってんだこいつ?」ってのが何度かあって荒削り感は否めない.しかし,支持せざるを得ない傑作エンターテインメントでした.

鈴木英雄.夢見る35歳(そろそろ他人事じゃない年齢に差し掛かってきたなぁ).この映画は,彼が自分の凡庸さを受け容れるまでの物語で,上手いのはそれを目の当たりにする観客は彼の凄さに気付かされる構造になっているところだ.

来る日も来る日もアシ業に勤しみながら持ち込み用の漫画を深夜まで描き続ける.そんな生活を彼女(片瀬那奈!)に愛想尽かされるまで続ける.これって,実は凄くない?彼女(片瀬那奈!)に愛想尽かされたりしたら,フツーの男だったら身を固めようとかそろそろ潮時かっつって守りに入ったり見切りをつけるでしょ.でも,鈴木英雄はやめなかった.諦めなかった.これって凄いよね.

猟銃の扱いがまったく錆びていないのも鈴木英雄たるところだ.「残り96発…!」のセリフを吐いてから,怒涛の人体破壊ショーが始まるわけだが,そのほとんどを命中させているのだ.凄い.「ん」とだけ音を発してイヤホン半分こする有村架純のとびきりの可愛さや喉を掻っ切りまくる長澤まさみの素晴らしさも凄いが,鈴木英雄はそれ以上に凄い.

「感染前に当人がもっとも支配されていた反復運動を繰り返す」というのがZQNの特徴だが,これは物語のテーマも担っているのだろう.

繰り返し繰り返し同じことをやり続ける.もちろんそれには良し悪しあるが「何かを乗り越えること」とは,そういった過程を積み上げた者が獲得できる凄味のことをいうのかもしれない.今年の邦画は面白い!最高!

打ち克つということ『ルーム』と『スポットライト 世紀のスクープ』

『ルーム』
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ラジコンの場面でブリー・ラーソンの見せる眼差しが素晴らしい.子どもが子どもらしく遊んでいる.それを目の当たりにする自分は親らしい親なのだろうか.皆はいったいどうしているだろうか.そんなことが影を落としている眼差し.あらためてオスカー受賞おめでとう.足の上を走るラジコンの追い打ち最高.

呈示した疑問を登場人間に克服させることを強いる物語.「もっと大きな声で」ハッキリと言える日はまだまだ先のことだろうけど,意図しない苦難によって弱さを痛感するのが世界なのだとしたら,幸福や祝福もまた不意に訪れるのが世界なのだろう.パトカーの場面がいちばん好き.パーカー巡査GJすぎる.窓に身を乗り出すジャック君が絵的に可愛い.

乗り越えるということは非常に困難でさらにその困難のツケも自分について回ってくる.生き抜く以上それから逃れることはできない.ならばその現実と向き合う.優しくも厳しい「克服」についての映画でした.


『スポットライト 世紀のスクープ』
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デリケートな問題に対峙した面々が,前傾姿勢にならぬよう注意を払いながらも腰を引かず着実に前進していくその「克明」についての映画.面白かったです.オスカー受賞も納得.

我々の目的は?ターゲットは?って話を腕組みしながら話す場面がもう楽しくてたまらないし,あちこち行って回って話を聞いてつまみ出されてデスクに戻ってまたあちこち飛び回るっていう流れもパターンが多くて良かった.マーク・ラファロが怒る場面で無駄にハラハラ.

自分を顧みることや弱さを受け入れたり羞恥心をさらけ出すことはもっとも難しいことだ.そのきっかけとなる道をつくったスポットライトチームに感服.素敵でした.

ことしのアカデミー賞関連は面白い.性格はもちろん違えどバランス感覚の研ぎ澄まされた作品が多いように思う.贅沢いえば,同じ時期にぶっ込まれすぎててちょっと忙しないよね.

今その裏にある危機『ボーダーライン』

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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品.『プリズナーズ』(2013)しか見ていないのだけど,撮影監督ロジャー・ディーキンスと組んだときは要注目確定.このタッグで製作中らしい『ブレードランナー2』(仮)へのワクワクが止まりません.

ドゥニ・ヴィルヌーヴのフィロソフィー×ロジャー・ディーキンスの撮影力も去ることながら,主人公ケイト(asエミリー・ブラント)があくまで正しい倫理観を持った一人のFBI捜査官として立ち回ってくれるため,麻薬カルテルについて予備知識がなくとも感情移入しやすいのがイイです.シンプルで難しくない.彼女と同様に事態に巻き込まれていき,彼女と同等の悔恨を味わう.難しくはないし味わい深い映画です.

ケイトが『羊たちの沈黙』(1991)のクラリスのように闇へ手招きされていく様子はスリリングだし,続編制作が決定しているということで今後『エイリアン』(1979)のリプリーのように力をつけていってくれたら面白いと思う.エミリー・ブラントには,是非そういう女優さんになってもらいたい.

映像,役者,物語と三拍子揃っているがさらに音楽も素晴らしい.合間合間にどこからか地鳴りのような音が鳴り,次第にそれが芯にくるほど響いてくる.見えないものが次第に見えてくる「今そこにある危機」ではなく,目にしているものの「今その裏にある危機」の存在を感じさせてくれる音楽だ.麻薬カルテル戦争の変遷も関係しているのだろうか.ゾクゾクさせてもらいました.それと,音楽とは違うけどスペイン語ってパラッパラッパッソパッソしてて言葉の響きが好きですね.銃撃アクションも撃つタイミングで魅せてくれていて瞬間にシビれました.

というわけで,みごとに期待に応えてもらえて大満足の傑作でございました.しかしながら,ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の好きなところはまだまだ良いものをつくってくれそうなところですね.繰り返しますが『ブレードランナー2』(仮)がとてつもなく楽しみ.ドゥニ・ヴィルヌーヴっていう名前もカッコいいよね.おわり.

ゴーズ・トゥー・ジャスティスリーグ『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』

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結論からいって超最高で今年のベストワンと今は言い張るけれど,んんん???ってなった場面はたくさんあった.まぁ,上映時間長いしね.歴史あるシリーズだしね.いろいろ思うわけよ.以下,すんなり楽しんでなかったときに思ってたこと箇条書き.

マーサそんなに大切ならもっとそばにいてやれよ.
爆弾に気付いていたのならスーパーマンも共犯ではとかそんな雑音いらん.
クリプトナイトの槍をもっと丁重に扱っていただけますか.
編集長はクラーク・ケントの正体をご存知ないのだろうか.
ロイスってば出しゃばりすぎじゃね?
距離を置いてたワンダーウーマンが顔バレしたからって協力的かつ好戦的になるのヘン.
ウォレス社員の動機付けがやや無理矢理な気がする.
ほぼ一人プレイのアルフレッドの発明天才ぶりは一体どこからくるんだ.

こんな所でしょうか.

そんなこんながありながらも「超最高!」と思えたのは,まずはジェシー・アイゼンバーグ演じるレックス・ルーサーが最高だったこと.スーパーマン&バットマンの三つ巴にふさわしい共通設定がしかれ,さらにアイゼンバーグ当人の磨きのかかった壊れたマリオネットのような演技が新たなレックス・ルーサー像を創り上げてくれていて最高だった.劇中,スーパーマンの次に名前が上がっていたのは彼の名だった.

もちろんベン・アフレックバットマンも良かった.良かったが大きな見せ場はきっとこれからのシリーズでもっと見れると思うので良かったと思うだけにする.人の面でとにかく光っていたのはジェシー・アイゼンバーグであった.

フラッシュがフラッシュバックする事故的なシーンもありはしたが,あくまで『ジャスティス・リーグ』という到達地点を見据えたつくりになっていたのも良くて,魔女は火あぶりだとか天地逆さまの絵だとか形式ばった描写が多いのは,きっとこの作品が単なる続編ではなく『マン・オブ・スティール』(2013)の精算の儀とジャスティスリーグという未来への布石なる役目を担っている自覚にも思う.

しかしながら,こういった映画のこういったドキドキとワクワクはそう味わえるものじゃない.「バットマンvsスーパーマン」という何億もの想いが交錯するタイトルを冠にした映画を仕上げてくれた全関係者に心の底から感謝する.こんなものを見せてくれてありがとう.もう,問答無用で無条件にこのシリーズを愛すると心に決めた.マーベルも好きだけど愛はより作風が私的なこちらに捧げます.

というわけで,序盤にエイミー・アダムスのバスタブシーンや谷間付近の字幕が邪魔だなァなんて思ってたのがおよそ100分後には涙する展開になっていて本当に映画は最高だなと思いましたです.ハイ.ザック・スナイダーさん.これからもよろしくお願いします.

青春歌留多部活譚『ちはやふる-上の句-』

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初日初回で鑑賞.若者が自らの心許なさを受け入れていくとっても清々しい青春映画でした!

「詠まれた歌の札を取る」というシンプルな運動性は千早.古来からの歴史とそれゆえの間口の広さはカナちゃんと肉まん.神経戦の魅力は机くん.そして,歌に秘められた想いの美しさ/儚さは太一.かるたの魅力を分散させたような瑞沢高校の5人がすこぶる魅力的です.

はじめのうちは「かるた部を設立するために集まった5人」だったのが,物語を経て「5人が集まるためにかるた部は設立された」に変容していく.春に打ってつけの美しさを存分に楽しみました.

役者で断トツに良いのはやっぱり広瀬すず,『海街diary』(2015)のドリブルも良かったけど,この映画の走りっぷりもなかなかです.何より彼女は汗がすごく良い.他の子よりも汗が俄然輝いて見える.今のところ涙よりは断然に汗をかいてくれたほうがいい女優さんです.

「かるた部」という珍しい景色を決して色物扱いせずにどこの学校にでもある景色,どの高校生にも起こり得る出来事として見せてくれたことに作り手の丹精を感じました.道場や大会会場の並びも教室や朝の校門と同じ美しき青春の原風景です.

また,タイトルロールや挿入されるアニメーションもイイです.劇中の言葉を借りれば「なんと雅なことか!」ですね.この映画で繰り返し見たいポイントはどこかときかれれば人の部分では全編良くて選べないので歌に想いを馳せるアニメーションと答えます.

ハイ.というわけで,鑑賞後の気分がとても晴れやかになる傑作でありました.何やら気合いが入っているらしい松岡茉優が登場する下の句が待ち遠しいです!

タランティーノの絶対性『ヘイトフル・エイト』

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クエンティン・タランティーノ8th FILM.いつも監督作品の数なんて宣言してたっけ?たまたまこのタイトルになったから泊をつけるために8作目って言っておくか的な?まぁ,特に掘り下げることでもないけども.

いやこの映画ちょー面白かったです.ゾクゾクした.ひたすら愉しませてもらいました.どういう映画だったのか,説明するために本意ではないながらもひとことで言わせてもらえば西部劇の皮をかぶった『遊星からの物体X』(1982)ですね.

付け加えるなら,これはタランティーノに限ったことじゃないけども,オリジナル脚本でやってるひとの映画って,基本的な核はそのままブラッシュアップを重ね続けるほかないと思うんで,その視点でもきっと印象付けることができますよね.タランティーノでいえば「復讐心」とか.

しかし,そういった相対性にはあまり意味を感じないので,ボクがいちばん思ったことを書いておきます.

「絶対悪」です.

この映画,まじで悪い奴らしか出てこない.そういう映画は他にもあったろうけど,この映画はタチが悪い.白人黒人,北軍南軍,賞金首,縛り首,そういった人間性によるところのワードしか出てこない.倫理観や道徳心が粉微塵も無い!

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絶対悪の象徴

それらのコイツとコイツがこういう関係でアイツとアイツは実はこうで……と,タランティーノによって差し出される「料理」をそのまま食せばいいのだ.伏線だの何だの気にせずにシンプルに把握するだけでいい.見ているだけでOKだ.タランティーノがこの映画を編集し終えた時点で見る者が愉しむことは約束された.だって,あの状況のシチューは絶対旨いじゃん?温かいコーヒーだってあの場にいたらまず飲むじゃん?この映画もそういうことだ.

タランティーノ映画にしか成し得ない絶対性をこの映画は獲得していると思う.タランティーノ映画を見たあとって,まず頭をよぎるのは過去のタランティーノ映画ですよね.タランティーノという映画監督は映画というジャンルにおいて,そういった高みに手が届きかけてるのかもしれない.ハイ.これから好きなタランティーノは?ときかれたら『キル・ビル Vol.1』(2003),『イングロリアス・バスターズ』(2009),『ヘイトフル・エイト』(2015)と答えます.