いずむうびい

テキトーなブログ。

弱肉狂食『ヒメアノ〜ル』

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安藤さんを見て脳裏をよぎるのは『タクシードライバー』(1976)だが,安藤さんはタクシードライバーにはならない.タクシードライバーのような劇的な幕切れはなく,ただただ膨張しただただ萎んでいく映画だった.今はタクシードライバーっつったら生田佳那だしね.

先輩の頼みで可愛いカフェ店員へリサーチをかけたらその子に好意を寄せられてその理由が「タイプなんです何でも聞いてくれそうだから」なんてものでその告白はつまり私のわがまま許してくれそうと西野カナのトリセツよろしく曝け出しているわけでこのいたずらな可愛さには辛抱たまらんと佐津川愛美にすっかり夢中にさせられるてまでが長いプロローグでその手続きが済むとHIMEANOLEのタイトルバックが挿入され吉田恵輔監督ってこんなことする人なんだと驚かされてから残り10分に至るまでいったいどこへ着地するのかまったく分からない狂騒に圧倒されて走馬灯の如きラストですよ.お見事!

主にやられるのはユカちゃんだけど主要登場人物はみんなイイ.岡田くんとユカちゃんは性格/恋愛に対する姿勢は真逆だが身体的なサイズがほぼ同じ.安藤さんと森田くんは見た目こそ違えど危うい中身が似ている.彼らは同じ穴のむじなというわけだ.

そんなキャラクター造型に関わることとして序盤にいくつかの質問が登場する.「仕事終わったあと何してんすか?」「彼氏はいるんですか?」「今は何してるの?」.日常生活でもよく遭遇するこの質問が象るのは,彼らのキャラクター性にそれ以外に特徴がないということだ.共通項として彼らは全員が「無趣味」でただただ生を浪費する毎日を送っている.これだけ多様化された世の中で「無趣味」を選んでしまうのは不幸なことだ.しかし興味を持てないのだから仕方がない.何かに興味を持つことができない反面何者かになりたい欲求ばかりが肥大していく.

そのスパイラルに無理矢理落とされたのが森田くんだが,彼の行う自慰行為は彼を快楽殺人者たらしめるだけでなく途方もない虚しさを伴っていた.いじめという名の暴力によって自慰行為を強制させられ,孤独という名の不幸から自慰行為ばかりしていたらそれだけに達者になってそのツボだけが歪になっていったということなのだとアノ顔を見て思った.近年まれに見る虚しい描写であり史上最凶の死んだ目だ.

行為に及ぶ2人へのクロスカット.生と死の快楽のコントラスト.佐津川愛美の代わりの脱ぎ要員.警察の貧弱さinジャパン.タクシードライバーにはなれない.ひたすらに過酷な現実を生きる,生きながら着実に死ぬ若者たちの映画でした.吉田恵輔監督の最高傑作と思います!