いずむうびい

テキトーなブログ。

戀をしたのは『映画 聲の形』

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恋をするとツラい.その気持ちがどういった仕組みでどんな作用を自分に及ぼしているのか分からなくてツラい.けれどそれは紛れもなく自分の気持ちで相手に対する自分の真っ直ぐな気持ちで処理できるのは自分自身でしかなくて.

 

ツラいのに慣れてくると恋と向き合う.そもそも自分はどうして恋をしたのか.あの人を想い始めたのはいつからだったか.それはいつの日か来るかもしれない告白の場において整理しておくべき事柄なのではないか.そういった抱え込みが過ぎると恋をしてる自分が好きなのではないか?恋に恋するとはこのことではないか?なんてことを考え始める.しかしそれらは恋をしたと分かってからでないと−−−恋をした経験が備わっていないと出来ないことでもある.

 

主人公・石田は西宮とのファーストコンタクトで宇宙人を思い浮かべる.それまで生きてきた自分の世界には存在していなかった存在との遭遇を意味する描写だ.「おもしろい!」聴覚障害を持つ西宮のことを石田はそう思った.それから「いじめ」や「友だち」などの人間関係を経て,最終的には石田自身が西宮への想いに気が付いていく.そういう物語と思った.

 

石田が手話を覚えるのは西宮とコミュニケーションを取るためだ.何のためにコミュニケーションを取るのか.これが石田自身もよく分かっていなかった.西宮の妹から善人ぶりたいつもりならやめてくれると言われれば申し訳なく思うし,植野からいじめの贖罪のつもりと揶揄されればそれにも申し訳なく思う.すべてがピースとして当てはまるがどれも石田の気持ちを代弁してくれるものではなかった.

 

石田が西宮へ抱いたのは恋だった.しかし石田にはそれがわからなかったのだ.おもしろい!という感情でしかなかった.ノートを返すべきだと言うほかなかった.あのときのことを謝りたいと思う以外に説明がつかなかった.恋なんてしたことがなかったから.

 

聲の形の漢字に目を引かれるが「恋」という字は「戀」と書くそうだ.つくりを見ると「心」の上に左右に乱れた「糸」とその中央に「言」がある.糸のほつれた心の均整を保つにはそのことを伝えるほかないのだ.伝えるためには自分がどうしてそのようなことを想うのかきちんと言葉にして整理しておかなければならない.乱れたままの想いはどんな手段を用いても相手に伝えることはむずかしいから.

 

西宮を見て石田が思ったのはきっとこうだ.

 

「オレと同じだ」

 

名前の似た2人は生きていくうえで脆さを抱えた人間だった.それを隠すようにいじめ行為に走るということは子どもなら当然のようにあるし,いじめとまではいかずとも本心とは真逆の行動を取ることは多くの人間によくあることだ.自分だけだと思っていた世界に現れた西宮に心かき乱され,そのときはそれと気付かなかったけれど恋をしたのだ.一人で生きていけないのは自分だけではなかった.ならば,その二人で生きていけばいい.だから,石田の告白方法は「生きるのを手伝ってほしい」になっている.

 

恋をするとツラい.一人では抱えきれない.だから,一緒に生きてほしい.『聲の形』はそれが初恋ゆえに回り道をする者と初恋ゆえの性急さに戸惑う者の想いの必然性が美しい物語だった.それにこだわったaikoの主題歌はほんとうに素晴らしい.大傑作.